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思い出を確かめながら渡る橋バックシートにCDなげて
江戸雪 (『百合オイル』(『セレクション歌人3 江戸雪集』より)
運転する時に気が散るから物を助手席に置いたり後ろに置くことはたまにやるが、しかし彼女はCDをバックシートに投げた。結構無茶なことをやると思った。CDというのは結構こわれやすい。いくらクッション材が後ろにあるとはいえ乱暴だ。
そこに「思い出を確かめながら渡る橋」という上の句が入る。最初、この取り合わせに少し戸惑った。上の句がどこか思い出に対して愛着がありそうに見えたからだ。東郷雄二氏は可能性として「誰かとの思い出のあるCDで,思い出といっしょにCDも放り出すのである」と記している。私もその読みにはわりと同感するが、それでもしっくりこないものがあった。「確かめながら」という把握が穏やかでクール過ぎると思ったのが、きっかけかもしれない。直後(?)に、CDを投げるという一種の暴力を行使する素振りを上の句にまったく感じられなかった。

いや、誰よりも思い入れがあるからこそ、こう鮮やかに捨ててみせることができるのかもしれない。結局、思い出を捨てることができるのは、当たり前ではあるが他者ではなくその当事者なのだ。
 鮮やかさという意味では「5・7・5・7・7」の定型をなぞっているのが、行動の鮮やかさに寄与していると思ったことだけ付け足しておく。
評:廣野翔一 (2012/05/20)

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