一首評〈第15回〉

「ナイフ? 何故?」咯什カシュガル女性ひとは紅き爪真っすぐに立てて白桃割りぬ
片柳香織 『京大短歌12号』

すっと、鮮やかな映像が浮かびあがる。
活気溢れる異国の地。柔らかく白い果肉にくい込んで行く真っ赤な爪。
艶やかに微笑む女性。甘やかに立ち上る、桃の香り。
私は咯什という地を知らないが、この地名の持つ不思議な音色は、遠くて近いような、
それでいてお洒落な雰囲気を醸しだしていて、心魅かれる。
その雰囲気の中に、桃を紅い爪で割る女性の一場面は見事に調和しており、
鮮明で、リアルな映像を作り出している。
完成された、美しい歌だと思う。
一読して好きになってしまった一首である。

増田一穗 (2003年10月1日(水))