一首評〈第21回〉

歳をとったら 歳をとったら君に出すお茶にもつつじのひとひらを入れ
森本平 『セレクション歌人28 森本平集』(邑書林:2004)

一読、恋人に「歳をとったら、私たちどうなるんだろうね」と聞かれて答える、というシーンが浮かんだ。
上の句では、老いを知らぬ者が老いを想像するのにどうしてもかかってしまう「間」が、リフレインと一字空けによって巧く表現されている。
下の句では、「つつじのひとひら」という言葉が目を引くが、「お茶」という言葉に注目したい。「歳をとる=お茶を飲む」という連想は、一見、安易だと思えるが、「歳をとる=お茶を飲む」と連想してしまうということ自体が、作中主体の若さを強調しているとは言えないだろうか。

老いを知らぬ者が老いを歌うということは、いつだって、若さを歌うことである。
そのことを如実に示す一首である。

光森裕樹 (2004年6月1日(火))