一首評〈第84回〉

不信は長く人を支へてきたといふその人の持つ閑かなフォーク
澤村斉美 「マンゴー栽培」(『夏鴉』)

 フォークの持ち方ひとつからその人の遍歴に思いを馳せる、簡単に言ってしまえばそんな歌かと思うが、分からない点が一つある。
 上句の「人」は下句の「その人」とイコールなのだろうか。文脈的にはそうだと思うが、「人を」なんていう言い方は人間一般について語っているようで、それが不思議だ。
けれど、この不思議な感じが、上句と下句に適切な距離を作っているのかも知れない。また上句がぼんやりすることで、下句のくっきりさが際立つという効果も生じているように思う。

吉岡太朗 (2010年2月1日(月))