歌会の記録:2016年3月11日(金)

歌会コメント

中山靖子さん、橋爪志保さん、松尾唯花さん3名の追い出し歌会。参加者は10名、詠草は126首でした。その後の宴会はくれないへ。卒業生のみなさん、本当にありがとうございました。

当日、中山さんはインフルエンザのため欠席でしたが、後日下さった詠草を末尾に掲載しています。

詠草

   ○

こはるさんへ

じんわりとあかるい部屋に水を飲み伸びる背中のまっすぐにいる

わたしには大きな身体もてあましもうすぐ朝が抱き上げにくる/松尾唯花

さまざまなかたちの身体のりこなしタイムラインの波にぴょんする

橋爪さんへ

飲み会でだらだらするの好きでした

沈黙に壁にもたれているあいだめろめろと柔らかな本音に

いつか★マークになってゆくだろう鮮明につよいプラスチックの

中山さんへ

核心をつらぬくまえの一瞬の読点をきく、早口だった

帰りにしゃべりながら

御所の口しずかに深く自転車はこわいよねって笑って二列

/田島千捺

   ○



待つだけのおとぎ話はこりごりではじめて夜へはみだしてみる

胸の中で一生かけて飼い殺す少女偶像うさぎ「ぴょんぴょん」



泣いたってやりすごせない泣かないとやってらんない毎日をやすやす抉じ開けられてたまるか

戦友と思ったままでいいですか あなたがあなたにゆるす休息



星空をめるへんちっくな墜落を したたかに掲げる旗印

きっと今日も敬語で話すことでしょう信用のこと、あこがれのこと

/北村早紀

   ○

3月10日の晩、夜勤の前に
明日である理由はないだが確かに遠ざかる日々 嘘ならいいのに



話しつつ静かにはずす眼鏡イズ信じらんないほどにラブだぜ

だんだんきみとおんなじことばが
歌うときマイクさばきも大事って知った河原町の横顔に

エモいってじょうずに使う 花々と羽ばたく鳩のパカをあなたに



並みの生活を営む やましさやまやかしはない少しばかりも

ガードレールに触れたい方だぼくなんか あなたの大人の遠さをおもう

塔でお会いしましょう
日常をきちんと歌う、きちんとのあたりに残る水あか模様


 
小春とは冬のことばであるからね白い毛布にもぐる野うさぎ

スタンプ第二弾、待ってます
日に何度かあなたのことを思い出す(例えばひとつ送る ぴょんすぞ )

間に合った追伸 ちゃんと覚えてる雪がいつかは花冠になるのを 



3月11日の晩、もう見えるようだ
最後じゃない……酔っぱらいつつ(運命か)なんとなく締まらない日だった

   ○

はしづめさん
かがやいたものは果たして春先のピアス、あるいはきみのいななき

はなみずき しずけさに色づいてゆく眼にきみだけの詩法をみたよ


こはるさん
吹く風がせわしなさげにふれてゆくあなたの指に、うさぎの耳に

前髪に罪をかくして追いかけたゆうべの、あれはかみさまの春


なかやまさん
知っている朝のすべてを訊きたくてあんぱんをはんぶんこしている

なせばなる。鍵をにぎってやましさをやすやす超えてここに来たきみ

   ○

葵橋西詰わたる しずかなる帆船の揺れをおもう かえらな

*おもしろい漫画を教えていただきありがとうございました
ねこぢる
「へいねこぢるうどん一丁」暴力よりもクールなかんじで煮込まれて猫

南Q太

(何かを手に入れたりなくしたり遊びながら)そのままこども帰らず

*Aphex Twin は"4"(Richard D James Album)をヘビーローテーションしてました

(Richard,)(Yup.)そちこちにハイハット飛び、音楽中毒者の莞爾たる

*船岡温泉

にんじんTシャツに浮かんでるにんじんの、祇園から来るはしづめさんは

湯冷めしつつお酒を選ぶくもりびに結社のはなし、かわいいお酒

ラーメン屋さんのこどもがラーメンをねだってて食べすぎてしまった

*天天有
うまい、甘い、ねっとりしてる、唇にくっつく、え何、このぷよぷよは

(ラーメン部の精鋭からはとりコラーゲンではないかという指摘もあった)

ではなく雪は燃えるもの・ハッピー・バースデイ・あなたも傘も似たようなもの/瀬戸夏子

やっぱり息はむずかしい・ハッシー・ハーティリイ・あなたの夜にうすあかりあれ

………

きょうたん鹿児島濃度/鹿児島本土はわたしにとってはCMの土地でしたが

ホットケーキ持たせて夫送り出すホットケーキは涙が拭ける/雪舟えま
(かるかんもいいけど)好きです。かすたどん。かすたどんでは涙が拭ける

フレスコで見つけてうれしくなっちゃって赤霧島は涙になりぬ

犬かクマかもぜんぜん知らんままだったJUカープラザの黄色いの

三輪山の背後より不可思議の月立てりはじめに月と呼びし人はや/山中智恵子

天文館に不可思議の氷菓立てりはじめに白熊と呼びし人はや

………

風鈴のかたちを予想することの、あなたのように鳴らしたき夏

きみが十一月だったのか、そういうと、十一月は少しわらった/フラワーしげる
きみは就活生だったのか、そういうと、女子高生は少しわらった

飛び級大天才マスターa.k.a.ぴょんずのこはるさん?
おにぎりをソフトクリームでのみこんで可能性とはあなたのことだ/雪舟えま
17歳が修士2回になっていて可能性とはあなたのことだ

まなうらの冷たき海を追い追いてゆかむ 躑躅躑躅のつづき

………

そのエネルギーに本当に感服いたしました
穴子来てイカ来てタコ来てまた穴子来て次ぎ空き皿次ぎ鮪取らむ/小池光
歌会行きてバイト行きてゼミ旅行行きてまた歌会行きて次ぎ空き日次ぎ教免取らむ

ヤスコスというスイード感のそのままに おやっとさあ、はあなたのために

/濱田友郎

   ◯

 送春集

生きていくのは適当で適当にやってけるから咲くんだぜ花
さらばとは永久に男の、(いや違う)さらばとは永久に
黄昏こうこんの夢

*献辞 昧爽の火山へ

たんぽぽのぽぽのあたりが火事ですよ/坪内稔典
恋人と棲むよろこびもかなしみもぽぽぽぽぽぽとしか思はれず/荻原裕幸


やすこすのこすのあたりが噴火する ぽぽぽぽぽぽと鹿児島になる

2012/4/18
思いきり泣いて誰かにすがれたら楽だろうなと笑顔をつくる

やばいですよと急にあがったテンションの、無理しすぎんようにはしゃごうよ

*献辞 女子高生という永遠の花へ

2015/4/16
この場所もかつて誰かの骨組みで、空き教室に吹きこむ桜


骨組みを旅立ってゆくこととかが春に雪ふるようにさみしい

ベロ酔いの女子高生は女子高生でゎなぃ また呑みましょうよ、光を

*献辞 隠しきれない爪へ

わりとでかめのリアクションしてくれたあと小さく(セクシィな)咳払い

2013/12/16
かんたんな道も迷路にしてしまう 炎のすがたで号泣してる


Skypeオールしたり、漫画を貸し借りしあったり(もうぜんぶ返したよね?)、短歌バトル出たり、クソ絡みしたり、クソ絡みしたり、クソ絡みしたり、――ねんがんの天天有本店に辿りついた私たちは、口元をべっとべとにしながら、しかしもはや何の会話をしたのかも覚えていない――、そういうことが私たちの間にはあったりなかったりしたが、それも定かではない。過ぎ去ったものは過ぎ去ってしまったいま、全てが愛おしく、全てが無意味で、かんぺきに思い出せないから、だから私たちは「短歌」を書いているのかもしれない。

燃えていくみたいな日々は過ぎたけどずっと生意気でいてくださいね

*この後は適当に読み飛ばしてください

こうやって適当に書く歌たちの恥ずかしいけど夜明け/手向けの花だ

さくらばなみしみし咲いて死んでいく愛しさのなか、ヨガのポーズを
折り句ってくそみたいだが春浅き思考のなかを埋めてゆくんだ

俺たちは歌会でしか殴り合えない 本気で噛みちぎるばらの花

横断歩道をゆっくりわたる ラブソングみたいな一瞬をいとおしむ

またね 雨の向こうに見えているポストはあまり赤くなかった

この歌を半分寝ながら書いている はしづめしほはいいなまえだな

カップラーメン食べたい ラーメン食べようって誘いたい またな 何度でも蘇るからな

棚の上に積まれた本のあいだから冬のうちわが見えたら ラブだ

歌のことしか話せないから(ごめんな、)馬酔木の道を歩いてくんだ

歌のことしか話せないけど(ありがとう。)何度でも桜を忘れたい

   *

せつなさは瞬間的に来るとんび バスは賀茂大橋をわたった

/阿波野巧也

   ◯

中山さん
泥だんご作れないほどトロトロの泥の水面いつでもさわる
全力で色々やって高熱を出して休んでまた繰り返す/中山靖子

でもちょっと手ぬきしなくちゃ表面に泥をつければみな泥だんご

こはるさん
声に出して読みたい日本語「うさぎさんぴょんぴょこりん」

まっしろの月にうさぎを追いかける夢から転がりおちて春です

橋爪さん
淀川は広いな鴨川とは全然ちがうなほとんど琵琶湖じゃないか/橋爪志保

淀川をびわこびわことよびかけてさしずめ僕の領地にしよう

/牛尾今日子

   ◯

花の蜜少しすくっては葉に付け季節を込めた栞を本に

/寺山雄介

   ◯

差出人、君。宛先、君の行くみち。君にひがんのはなを頼もう

/樟鹿織

朝比奈新一さま/朝比奈くん
おむらはうすのカード、使う機会がなくなるので今日あげます(備忘録)

オムライスをひとくち交換して、夜の駐輪場にもう春がくる

初夏のおしゃべり/それはそうと、「USJ吟行」って、ちょっとすれすれだよね。

USJ吟行すこし自信がないの ひらかたパークははつなつが好き

田島千捺さま/たじまさん
岐阜で撮った動画、面白くてよく見返しています。

赤上げて、白下げないで、赤下げない たたかいの息抜きのたたかい

たじまさんといえば川、みたいなところがある。
せせらぎを映す眸の星彩が、京都にも郡上にもいつでも川があってよかった

北虎叡人さま/とらくん
会えない日が続いて部屋にイヤホンの右耳のイヤーピースだけない/北虎叡人(短歌道場in古今伝授の里)

いつでも貸せるようにわたしのイヤホンはカナルにしとくから会いにきて

タイガーアンドバニーアンドバニー
ごくまれに「ガオー」と返事をしてくれるときやわらかな陽だまりの虎

川崎瑞季さま/川崎さん
きっともう来ないのだろうお土産を抱えてレジに持ってゆく人/川崎瑞季

旅行写真をふぁぼってきっと見返さないけれどいつかは行きたい場所に

地元で免許を取られたそうですね。京都で運転できる気がしない同好会をつくろう。
雪に慣れれば慣れるほどふるさとがふるさとになる話で飲もう

寺山雄介さま/寺山くん
寺山くんの微笑みっていつもどこかイケメンっぽい余裕がある。むかつく。

微笑みがいつもおんなじ微笑みであるのがずるいから朝曇り


五限後のいつの間にか暮れている星空を抜け食堂へ行く/寺山雄介

生活に星空をみる瞬間があるひとは信頼できるひと

濱田友郎さま/はまだくん
わたし寿鶴のことをずっとお酒だと思っていたんだけど、ほんとうは水だって、はまだくん知ってた?

ねえ寿鶴、寿鶴を飲もう 遺伝子を蘇らせる儀式にしよう

みんなが床で眠って、起きたら夏の朝、みたいなの、ないしょの歌にしときたかっただけ。
「たんぽぽ」と言われて手元にやってくる銀色の硬貨にも春の花


北村早紀さま/ぴょんす
ぴょんぴょん、ぴょん、ぴょーん……ぴょん!!!!!!!!!!

わたしたちすこし似ていてあまりにも似ていないよ 庭には二羽うさぎ

ぴょんずは解散……しません! アイドルなんだからしっかりしなきゃ!
みじめの反対はみじめ 燃え殻をハッピーエンドと呼ばされている/北村早紀

ひとりの反対はひとり(だけれど)寄り添って燃えてたまには火を分け合って

牛尾今日子さま/うしおっち
きょうたんのなかで、いちばん脳内再生の精度が高いのはうしおっちの声だと思う。

ほうれん草が安いとうれしい わかります、と心の中で唱えてもらう

踊りの渦を抜けてラムネを買った途端、大雨が降ってきて、屋根の下まで走って逃げたのが楽しかった。
お祭りに溺れるまえに抜けたからからかいに降る夏の夜の雨

中澤詩風さま/詩風くん
どの年だったかな、合宿の宴会を抜けて鴨川まで歩いたね。 #夜の詩風くん

三月の夜の河原はいつもより広くて声をひそめて歩く

古本市の店番をしているときに詩風くんが来てくれるタイミングがいつも最高だった。
学祭にすこし疲れて見渡せば、そう、そのがたまらなく好き

向大貴さま/こうくん
こうくんはわたしを壁の花にさせてくれない。ちょっとさびしくてうれしかった。

ひとりきりで座っていれば寄り添ってくれて気付けばいなくなる猫

会うとなんだか安心するのは、いつ会ってもおんなじ温度でいてくれるからかもしれない。
眠さうな花 黒猫は春のくる前のけはひをいつも纏つて

安田茜さま/あかねちゃん
あかねちゃんが銀杏の葉をガサッと掬って、頭の上からひらひらと降らせたあの午後は楽しかった。

ひかりなのか銀杏なのかはどちらでもよい まひるまの少女漫画家

どこにいたってあかねちゃんのまわりが明るければいい。
ひるなかに舞う葉のひかりが永遠にあなたのまわりに閃くように

阿波野巧也さま/あわのくん
水玉模様が似合う友達ランキング第1位に躍り出てから、もうずいぶん経ちます。

水玉のひとつひとつが輪郭を守って並んでいるボトムス

お互い人見知りをひきずっているけれど、歌会中に目が合えば、休憩時間、お酒に誘ってくれますね。
二杯目でようやく距離が縮まってやがて忘失されるお喋り

中山靖子さま/やすこす
からいもうまいもん。帰りの今出川通、いつも自転車を押しながら一緒に歩いてくれてありがとう。

桜島の見えない街の生活を分かち合いつつ烏丸通

初めからなかったことに 思い出にできないことも思い出になる/中山靖子
思い出に追いつかれないように春、ふるさとにいる友達が増える

橋爪志保さま/はしづめさん
はしづめさんの静かなfavは、1favにつき500元気モリモリptくらいもってくる。

なにも言葉がないからきれい 真夜中のスマホにfavの通知が降りる

確かに明るいのにどこかさっぱりしている笑いかたが風みたいで好きです。
風だった 春風なのか夏なのか、秋かもしれないけど笑ってた


きみもユダ、わたしもユダに名を変える薊だらけの野の柔らかさ/松尾唯花
どんなふうに咲いてもよかった あざみ野にわたしを赦すのもまたわたし



こんなにもお別れじゃないお別れがあること春を迎える野原

/松尾唯花

   ◯

 ありがとうでやんす

ひとりではくれなえないしふわふわのたまごやきやくれんしゅうしてる



樟さん
ほむほむのお話もっとしたかったな

口笛は澄んで木馬の回転はおだやかにひかりまみれの朝

池垣さん
この世界がふやけてしまうその前に笑ってくれよ /藍坊主「ジムノペディック」

この身体がふやけてしまうその前に風呂場にとじこめられて笑った

朝比奈くん
これからもキュートに毒づいておくれよ

けらけらとパーティーグッズをつけこなすきみは蠍のような光源

下楠さん
イヤホンの無音を聞きて雪の町 /下楠絵里

イヤマフのかわりにヘッドホンをあてコードはつながずにふりまわせ

大隅くん
書生さんふうの袴、似合うとおもう

明治からタイムスリップしたみたい、たくさんの「先生」を持つのね

川崎さん
わたしも最近旅行の楽しさに目覚めましたよ

かばんわくわくふくらむ岬に立つ 見ず知らずの灯、木々、魚、城

たじまちゃん
さっき見た夢のなかでたじまちゃんとお酒を飲んだ。ふたりで肩にもたれあってた。

出会いがしらにわぁ〜、って小さく手を振ってわぁ〜、って言って言って言ってよ

濱田くん
風にまかせてストッキングをほどいてくいとこのようなわからなさだよ /濱田友郎

たくさんのいとこでできた僕たちをずらして風は透きとおってく

きたとらくん
さよならを告げたのならば真夜中に瞼を訪ねてこないでほしい /北虎叡人

せめてやわらかなもぎりをまなぶた瞼の奥の小さな映画のために  
寺山くん
ふくれてしぼんでふくれてしぼむはんぺんを眺めて下宿に帰る /寺山雄介

意外とレシピがたくさんだからはんぺんは過ごしてゆけるよ日々を

詩風くん
テレビをみるたび、作る側のひとがいるってことを考えるようになりました

君は夢中で未知をあらゆる角度から見ている クイズはクイズから生まれる

あかねちゃん
点火するようにひとさし指で押す列をはみ出た詩集のひとつ /安田茜

詩をひとつ終えてあなたはつぎの詩へエレベーターの屋上を押す

北村さん
それではご唱和ください、(せーのっ)「ぴょんす」!!!!!

鍛えては迎え撃つのだ ラストでうさぎは振り向き黄色にわらう

うしおさん
その腕をかかげて夕陽を遮ればあなたはあなたの静かな水際 /牛尾今日子

ゆうやけで日焼けをするよ肘の上まで濡らして欲しいものは掴むよ

向くん
お勉強、大変そう。ふぁいとです

はつはるの日なたに置いた琺瑯のうつわのような印象のひと

やすこすさん
桜島見たいのでいつかいきたい…

なんとなく鹿児島のあの山が持つ野心がほしい少しだけなら

あわのさん
通話の雑音がシュノーケルの音に似ていて、いつまでも泳いでいられそうでした。

こぽこぽと淡くくぐもるSkypeを夜明けの耳につ注ぎあったこと

こはるさん
この場所もかつて誰かのフレームで、空き教室に吹きこむ桜 /松尾唯花

窓に顔突き出して口をひらいて揺れるはなびら、風がおいしい



カラオケ部のみなさん   
ルルルル〜

愛の名のもとにもちよるそれぞれの音楽 はるけきカラオケルーム

ラーメン部のみなさん
ズゾゾゾ〜


「ラ」「ラ」とよなか連絡とりあえば湯気立ちのぼる麺にスープに




曲はだんだん消えてゆき今はもうたんねんなピチカートを残すのみ

/橋爪志保

   ◯

阿波野さん

髪型はいつもうねりを変えてゆきピーキーズウィンドウに映す青空

味付けを楽しんでいる町並みをゆっくり歩いた君の視線は

牛尾さん

白菜の値段が低くなるころに君のニットを思い出す ああ

気がつけば遠く水面を漕いでいた舳先に灯る丸いひかりよ

北村さん

木のかげをぴょんぴょんしている足元の弱き雑草踏まないように

目の前を大切にする銀河系一つ向こうも監視しながら

中澤くん

いたずらが成功したよめくられたカードと君の超イイ笑みだ

真剣で頭が揺れる発言を許可されるのち始まることば

安田さん

唇は言葉を始め伝えたいことは木の葉の中にゆらいで

背景を染め上げていく指先の銀杏いちょうをかき混ぜて、きれい

向くん

許されたシャツの袖から白々と指はのびおり はためかされず

飾り気のない鋭さは通り魔のいない路地にひっそりと立つ

北虎くん

髪の毛に触れる にじんだ真夜中の灯りは畳に影をおとして

距離をとる優しさに雨は降りそそぐRINGOの前の暗い道にて

田島さん

水色の空気に透けて一瞬のえくぼを隠す髪とまじわる

真剣な声に顔を上げるとき君のゆびさき歌稿の上に

寺山くん

揺らがない(空気にふれて)君の目は眼鏡のレンズを透過している

控えめな笑顔と閉じた本の上空気が少し重さを増して

川崎さん

たくさんの地面を知った靴のこと聞いてみたくてまだ座ってる

行き先に至る道筋ゆうらりと線を描いて(進んだのだろう)

朝比奈くん

確かめる前の噂が過ぎてゆき明るく橋を渡りはじめる

君の歌、好きですの前のためらいを越えてみる 手を残したままで

池垣さん

細くなるひとみの中に文鳥を遊ばせている曲げた指先

静けさの暴力からは程遠く部屋の灯りを消してくれるよ

大隅くん

なだらかに空気は抜けて言葉からひどく素直な小人生まれる

わからないことは歌を見ていくよ半島のこと話したのだった

樟さん

輪郭のある語りだし二枚目のレイヤーで色をはみ出していく

フラットは平面でなく音楽のフラットなんだやわらかく蹴って

下楠さん

できていく22号の片隅に挙げられた手の思い出がある

もっとという気持ちは髪にくくられて肩におりゆく(もっと)

 *

松尾さん

不器用な手の中にある花びらとグラスに透ける清酒のゆらぎ

海原の先に地面があることを知りつつ歌う三つ編みの君

橋爪さん

ウォークインクローゼットを街中につなげて進むスニーカー【ぼろ】

届いてる指先をもつ 大きめの服がきれいにたわむ宵口

 *

さよならの準備がこんなに楽しいと思わなかった雨は遅れて

/中山靖子
  • このページに掲載の歌稿は、作者の許可のもとで掲載しています。
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