歌会の記録:2018年3月16日(金)

歌会コメント

追い出し歌会を行い今年度で卒業される先輩方を送り出しました。
参加者は計9名、歌会後はくれないにて食事をしました

詠草

※表記について:作者の名前の後に短歌を載せています。

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金山仁美

遠くまで行けるなら行く音漏れのするイヤホンを捨てられないで

夢にみた場所で出会った人たちに夢をあげたいとそう思う


 川崎さん
  川崎さんと夏合宿にて
なつかしい地元の山と同じ色の奥多摩の山がよく似合う人

夜のお散歩に行くには弱い誘われて靡けばよかった夜のお散歩


 北虎さん
  北虎さんと文フリの売り子にて
少し怒りすぎたね もっとおおらかな大阪の空仰ぐ暇もなく

  あなたとは遠景のこと ぼくの待つ横断歩道を越える飛行機
あなたとはあの春のこと 待ち望む横断歩道のむこうの景色


 田島さん
  田島さんと歌会後のマックにて 
推しのいる世界の人とハイタッチ 夜の100円コーヒーはぬるい

  同じく歌会後に書棚のあるお店にて
歌集があればよかったね、って言いながらとろろと茄子をいっぱい食べた

もし違う世界の人ならそのときは池のあるお屋敷で会うだろう


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城戸真色


 北虎さん
昼下がり眠っている窓 その前でソファの背もたれいじってる人

あったかくなる春が来るって言うけれど冬が終わると誰も言わない


 川崎さん
大玉のビーズを一つ手のひらに転がして肌が美味しいと言う

午前二時温泉まんじゅうひとつぶん肯定されて紙をむいてる


 田島さん
桜より先に咲くから寒さにも慣れているのだ身をちぢこめる

冬の日をからめとろうと枝々は宝石箱の仕切りになって


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西川すみれ


 北虎さん

あの夏の夜の光にほろほろと溶けゆく梨が浮かんで消えゆく
 
カルピスの牛乳割りを飲んでいるあなたの中の灯火を思う

ラーメンをすすれるようになりたいな 白い吊革を回してみようか


 田島さん

助詞だけで世界を作りかえてみせるあなたの瞳に映るみずうみ

必要なものの少なさ知る君はトートバックで旅に出ていく

あのバスはきっと知ってる鴨川の風の強さも優しさも全部


 川崎さん

映画から出てきたみたいに旅をするどんどん髪を短くしながら

星の降る夜を歩いて疲れたら少し休んでまた歩き出す
   
チョコミントのアイスを片手にあの橋を渡ったときのあのせせらぎを


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大隅雄太   


 川崎さんへ
あるいは、どこかで出会うこともある 川のおもての水を知ってる

 北虎さんへ
   おしゃれハットと春合宿と
にあわねばならないスーツ おしゃれとは中折れ帽の似合うことなり

 田島さんへ
本棚の素を抱えて高野川の XMENをまた見たくなる


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小林通天閣


 田島さんへ
さからう風をゆるして笑うゆるやかな 栞 しずかに前景の蝶

 北虎さんへ
沿線に歩みは止まず(って言いながらいつも路傍の花に屈んで)

 川崎さんへ
一時停止を押して歌集を探すなめらかにカーテンレールしかも初雪


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 濱田友郎


  *

集中力ないぼくらだが ゆうじようは雨後の橋みたいなもの ですかね?

謝ったりお礼をいったりしなくちゃなみなもに水馬すべらせながら

われわれのはなった眼鏡も鴨川の子メダカの巣になるさ さよなら

  *

  ヘイドラゴンカム・ヒアといふ声がする(まつ暗だぜつていふ声が添ふ)/岡井隆
  ヘイ拉麺ラーメンヒウィゴーといふ声がする(こつてりだぜつていふ声が添ふ)/阿波野巧也
ヘイ拉麺ラーメンヒウィゴーといふ声かけて拉麺が来いつて叫ぶのがきみ

朝に出会わない、ことはなかったカラオケの(かくれんぼしてた日が暮れてった)

  *

三条だっけ四条だっけ、駅ビルの、まどべできみの吸う煙草かな

どこかへと向かうジェットの白いひかり 川崎さん、そっちはどうだあ


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北虎叡人

なにものこせるものがないので
                       北虎叡人


酔いにかまけて悪いもわからんままうたうからいなくなっても続け韻律


    *

   たくさん撮る 四角い枠に町並みと積み木のような月日をきみは  /2016.3.7
つないだまま近づいてくる街並みは時間も川もただひとすじに   /2018.3.7

観た?観てない?観てないの? なんだよぉ  と小さなこぶし振る様子のほうこそをよく見た

あなたがあなたのことばで話しぼくはただ頷いてきた鑑賞練習

  はじめて名前を聞いたのはサイゼリヤ四条河原町店
数分ののち捨てられるナプキンに名前の漢字を書いてもらった

あの奥多摩の梨のひかりが真夜中の三条通りにもあるエンドロール

もっと応えてみせたかったが今出川通りを自転車は遠ざかる


    *


会うたびに時計を褒めてくれるから十回は左手首がひかる

可愛さの先に美しさがあるときみは言わない ずっと綺麗だ

東京ってたぶんたのしいところだとおもう ペルソナの新作も出る

ともに旅行にいくと言うよりはぼくたちがあなたの移動に合わせるような

おまえはこれまでに渡った信号の数を覚えているか? 比喩でなく

背筋を伸ばしてビールを飲んだ坂の途中ぼくも酒池肉林したいしたい


    *


それじゃあまた。 魔法鏡マジックミラーと魔法じゃない鏡の見分け方を知っているか

たぶん互いに知らないことの多くある切符をさよならする改札機

あなたのこころ ふめつのこころは百万遍ゆきかうすずめも春なんだろうな

スーツっていいよね いいね と交わす日も羨んでいた吹かしても似合って

ぼくはゆきあなたは残るそれだけを祝福にそんなに降りしきる

はじめましてもましてや冗談もまだ知らないまま明日もともだちだろうぼくたちは


    *


叡電ってぼくの字なんすよ だからなにって感じだとは思う もう終わりかあ

早かったしか言えないよ幾千の日々が還って来はしないから

案外呑めることにちょっと驚いてこんど閉まるまでおむら屋、行こう

棚卸し かつて話した信仰を湯割りにばかり繰り返す店

ゆくりなく雪の歩道のはしっこで会うような気も、いや気のせいかも

いちばんに眠ったあなたおそろしい有馬の夜をしらずに済んで


    *


恋請わば病めるときも失敗に鬱々とする転落もかくしか

語る 死す あなたの日々を燃やしつつ聳え立つ一本の万年筆

目の前のまさに目の前のひとをこの全身全霊で好きなだけ、なに

しならせてゆくんだろうね冬枯れの過去を それは遺言ではなく

ひとって案外わすれてしまうものらしく君の現在は贖われたかな

短歌って身勝手だよなこころから先に生まれたわけでもないが


    *


きみがいてくれてよかった はんぺんの日々に遅刻もゆるしあいつつ

クアラルンプールだったかシンガポールだったか 追い出したくない気持ちと受け取る

缶ビール6缶セットの空き箱を王冠としたのはぼくでした

おとといの夜にまた今度でいいやって流したのは長くなりそうだった

照らせばたぶんやましいこともゆうぐれに透ける窓ガラスみたいにあれども

朝雲が底から光らされているようにあなたのやさしさがくる


    *


ざいがくのみなさんにのこすうたたちはあとですべては宴のあとで


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川崎瑞季


人の旅を邪魔する人は羊かな、羊に蹴られてもう目覚めない

大特価点滴静脈注射用有馬の温泉(産地直送)

甘いからコーヒーなのだこの街と仲良くできない私が悪い

アッスウーディーヤ、サウジの夕べ 太陽は溶けて大地に染み込むらしい

夜空かもしれないココナッツじゃなくて月が砕けて飛び散っている


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田島千捺

 石本森羅さん/石本くん
  The Shape of Font
雪かきを昼と夜とにする日々に文字のかたちをまた積もらせて

 妹尾歩さん/妹尾くん
闇だけがひかりじゃないね桜にも故意と作為を見出せる目に

 さやこさん
机から上がった顔に微笑みがぴったりはまる夜のおしゃべり

 尾崎七遊さん/七遊さん
欲張りな服を着ようよどこだってステージの上、大見得を切れ

 金山仁美さん/金山さん
  深夜のマクドナルド、もう一回くらいしたかった
ずれていく話題のなかの人名に手を振ってまた会話に戻る

 城戸真色さん/きどさん
よりわけるものを増やした歌のなか色づいてゆく虹のすがたが

 西川すみれさん/西川さん
生活のひとつひとつをかたどった和菓子のようにすべらかなひと

遠慮なくドアをたたいて起こしてね春の日なたのかおりのままに

 藤田陽一郎さん/藤田くん
降る雨をじっとたしかめようとする眼差しだった一途であろう

 大隅雄大さん/大隅くん
きみの言う問題系がひろがってお酒と皿のうえを覆うよ

 先輩たちより早いなんて……
いつもいるひとがいるけど先に行くように小さな橋を跨いだ

 北村早紀さん/北村さん
  きょうたんに居ついたのは北村さんが会長だったからだと思います
信号でわちゃくちゃになる混乱のさなか祝福だけは言いたい

開いても閉ざしてもいいこころって振り回したら月までいける

 中沢詩風さん/詩風さん
微笑みは丸い括弧のそとにある心置きないやさしさなんだ

コンビニを出たら出会ったいつだって風がそこにはあたたかく吹く

 向大貴さん/向先輩
こうさんの声がひょいひょいほめるとき雪解け水の流れる心地

 同輩たちへ
 寺山雄介さん/寺山くん
  寺山くんは頼りになる、と思うようになったよ
ブランコのまわりは雪が解けていてブランコに乗りたいなら乗れよ

 濱田友郎さん/濱田くん
雪だって現実だからささやかな友情としておぼえておいて

君とは声を低めて話すのがいちばん気軽だったが

止まるなよ、すべての春の最強をかなえるような道に出ていけ

 高橋由賀里さん/高橋さん
ちょっとだけぎこちないまま菜の花を褒めあうけれどきみは寝ちゃった

 小林通天閣さん/小林くん
小林通天閣のいろんな教養がすっくと立った京都駅前

 北虎叡人さん/とらくん
  いい映画を観ようね
トランプが散らばるように見たものをきみに指差すから見てほしい

 川崎瑞季さん/みずきちゃん
  もうちょっとデートしたかった
いつどこに行ったのかさえ知らなくて頭のなかにタイやベトナム

 二回の有馬旅行
歌会をサンクチュアリ聖域として歩く足並みなんてそろえなくって

退屈を知らない日々の鴨川をまた歌にする きっとなんども

橋ひとつ渡ってむかうしずけさに感情はいまわたしのものだ


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吉岡太朗


  流れの合わざる川を詠む 時に澄み時に濁ろうと
長い川
たえまない水
さながら永遠とわ
四季四度しど過ぎたが
川続き
水消え去らず
滝なす
(君息長い
作歌さっかしたいと言い
末永い幸
授かった)
また来たらいい
ずっと待つ
変わらない土地
時無き川


春過ぎてたちまち夏となりゆくを川はゆっくり流れていった

涼やかに白満たす川 先に咲くみずきが次のみずきを呼んで

  たとえ散り散りになろうと
くだるのは虎の道のぼるなら人の文字 川の別れを比叡の北へ
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