一首評〈第27回〉

ティーバッグ破れていたわ、きらきらと、みんながまみをおいてってしまう
穂村弘 手紙魔まみ、夏の引越し(ウサギ連れ)

初めて買った歌集で、今でも一番好きな歌集の、とても好きな歌のひとつである。
読むといつも、涙のでる直前のように涙腺がじんわりと熱くなる。
哀しみや怒りほどに凶暴ではなく、その透明さでひたひたと心を侵す
喪失感という感情を、何度でも追体験させてくれるからだ。
夏の終わりの高くて遠い碧空を見上げたときのような、
手から離れて落ちて砕けてしまった硝子の破片のような。
流れて遠くへいってしまうことがわかっていてもただ見送るしか
できなかったものを、この歌は思い出させる。
ゆっくりと、しかし確実に通りすぎていく季節の中で。
破れたティーバッグの中身を、どこに落としてきたのだろうか。
ただ今は、それらがきらきらと、まみちゃんや私の
通ってきた道のどこかに輝いていることを祈るばかりだ。
もしかして、それらを置いてきたのは私の方かもしれない。

生駒圭子 (2005年3月1日(火))