一首評〈第55回〉

結果より過程が大事 「カルピス」と「冷めてしまったホットカルピス」
枡野浩一 『てのりくじら』

句切れ方が王道だと思う。これだけ明快な内容は、このくらい五七の型にはまりきっているほうが心地よい。

一見誰にでも作れそうで、しかし作者が凡人と画するのは、上の句を〜「カルピス」と、という下の句を待たずにいられない形に終わらせ、下の句で、抑えつつもさらりとユーモアをひけらかしているところ、だろうか。

でもって、だから、重きは過程ではなくて結果にある気がする。ということにすると、残念なのは、実際の「カルピス」と「冷めてしまったホットカルピス」は、微妙に見た目も、質も、味も違うということだ(ついでに、売出しは「ほっとカルピス」だったような)。「チョコレート」と「溶けてまた固まったチョコレート」差ほどのえげつなさはないけれど、なんだかどうもいただけない。
もし、「それが狙いなんです。」と言われればそれまでだが、狙いを説かれるのは、詞書やルビを含んだ三十一文字を自信たっぷりに読まされるかんじと似ている。
でもまあ、紅茶でいうと、3分煮出しの初摘みストレート(?)以外は邪道だと言われても、たまには胃にやさしくミルクも入れたいし、香り付けされたものもないと味気ないのと同じだよ、と、どなたか言うてください。

吉村千穂 (2006年9月1日(金))