一首評の記録

Tanka Review

159：
水鳥の潜りしのちをたゆたえる海はおそろし音立てなくに　　花山周子
評：奥村鼓太郎
158：
本当に大事なものはいつだって名前　それが二つある犬　　佐クマサトシ
評：奥村鼓太郎
157：
青春はみづきの下をかよふ風あるいは遠い線路のかがやき　　高野公彦
評：今紺しだ
156：
来年もかならず会はん花棟（はなあふち）岸辺にけぶるこの紫に　　河野裕子
評：岡鷹男
155：
ひとつずつ慈しまれた花弁が飛び立つ角度に開くdaisy　　星野さいくる
評：帖佐光浩
154：
ゼブラゾーンはさみて人は並べられ神がはじめる黄昏のチェス　　光森裕樹
評：武村みこ
153：
一月のエスカレーターめくるめく泣きそうな手だと思ってしまう　　大森静佳
評：穂波
152：
あなたからあなたの腕は生えていて途切れつつ剥くりんごの皮を　　はたえり
評：西川すみれ
151：
きみが死ねばぼくは悲しいから雪の原野に海老の天ぷらを置く　　石井僚一
評：金山仁美
150：
ステージの光錐（ライト・コーン）に獲（とら）えられ彼も海へは還れぬひとり　　永田和宏
評：妹尾歩
149：
忘却はやさしきほどに酷なれば書架に『マルテの手記』が足らざり　　吉田隼人
評：小林通天閣
148：
きみはきのう惑星と呼ばれそしてひらかれた窓から入る朝鮮に　　瀬戸夏子
評：濱田友郎
147：
桔梗（きちかう）はひと花ながら傍（わき）歩（あり）く雀の素足すずしくかろし　　北原白秋
評：高橋由香里
146：
どうしても君に会いたい昼下がりしゃがんでわれの影ぶっ叩く　　花山周子
評：牛尾今日子
145：
水槽に一匹残つた魚のやうに列車の窓に青年が寄る　　楠誓英
評：松尾唯花
144：
「キバ」「キバ」とふたり八重歯をむき出せば花降りかかる髪に背中に　　穂村弘
評：北虎叡人
143：
雨の県道あるいてゆけばなんでしょうぶちまけられてこれはのり弁　　斉藤斎藤
評：阿波野巧也
142：
もう歌は出尽くし僕ら透きとおり宇宙の風に湯ざめしてゆく　　雪舟えま
評：橋爪志保
141：
光のなか光さわだつさまなして黒き鳩群橋よぎり飛ぶ　　高安国世
評：榊原紘
140：
こんにちはみなさんたぶん失ってきたものすべて うれしいよ会えて　　柳谷あゆみ
評：田島千捺
139：
桃の毛をひからせあらふきらきらと依存心ふかくさびしき今日を　　米川千嘉子
評：坂井ユリ
138：
これでいい　港に白い舟くずれ誰かが私になる秋の朝　　大森静佳
評：牛尾響
137：
会ひたいが何にが何んでも会ひたいになつたあたりの折り目をのばす　　山階基
評：榊原尚子
136：
鳥　教会　草　雨　ガラス　君の言ふものにひたりとわれはつまづく　　澤村斉美
評：北村早紀
135：
受話器にて君の不在を知る時に雨は微かに強くなりゆく　　永田淳
評：村川真菜
134：
ころんだという事実だけ広まって誰にも助けられないだるま　　木下龍也
評：廣野翔一
133：
夕焼けがわたしを倒し渡ってく倒れて町の一部となりぬ　　雪舟えま
評：牛尾響
132：
はじめて笑った日のこと思い出せそうだうなずきながら君に手をふる　　北村早紀
評：山田峰大
131：
やは肌のあつき血汐にふれも見でさびしからずや道を説く君　　与謝野晶子
評：中澤詩風
130：
心臓をまもって歩くけものたち(夏のいのちはいたみやすいね)　　村上きわみ
評：北村早紀
129：
「薄明に野の祈り容（い）れられず斯（か）くて夜はきしむ卵となりぬ」　　中島らも
評：向大貴
128：
問十二、夜空の青を微分せよ。街の明りは無視してもよい　　川北天華
評：小林朗人
127：
問十二、夜空の青を微分せよ。街の明りは無視してもよい　　川北天華
評：廣野翔一
126：
一度だけ本当の恋がありまして南天の実が知っております　　山崎方代
評：榊原尚子
125：
いとしさもざんぶと捨てる冬の川数珠つながりの怒りも捨てる　　辰巳泰子
評：坂井ユリ
124：
目を閉じて音だけを聞く映画にも光はあってそれを見ている　　山崎聡子
評：安達洸介
123：
せつない　とあなたの声で言ってみる　あなたの耳に聞こえてる声　　斉藤斎藤
評：阿波野巧也
122：
ここはきっと世紀末でもあいている牛丼屋　夜、度々通う　　吉田恭大
評：藪内亮輔
121：
「西友」の看板だけが明るくて試験監督している窓辺　　俵万智
評：中山靖子
120：
銃口の楊羽蝶（あげは）はつひに眼じろがずまひるの邪心しばしたじろぐ　　明石海人
評：廣野翔一
119：
翔ぶ鳥はふりかへらねど廃船は過去の時間を載せて傾く　　築地正子
評：笠木拓
118：
思い出を確かめながら渡る橋バックシートにCDなげて　　江戸雪
評：廣野翔一
117：
水の光（かげ）とどめるビー玉死のときに握っていたいもののひとつに　　江戸雪
評：小林朗人
116：
帰り道あなたがわたしを覗きこむ顔の角度をみつけてしまう　　山階基
評：廣野翔一
115：
セーターはきみにふくらまされながらきみより早く老いてゆくのだ　　平岡直子
評：小林朗人
114：
人間に恋してしまつた　ほのあかりする夕星（ゆふづつ）に打ちあけてみる　　安田百合絵
評：廣野翔一
113：
鈴を産むひばりが逃げたとねえさんが云ふでもこれでいいよねと云ふ　　光森裕樹
評：小林朗人
112：
卵立てと卵の息が合っているしあわせってそんなものかも知れない　　杉崎恒夫
評：三潴忠典
111：
忘れ得ぬ心みたりし春のこと千の椿の葉の照り返し　　馬場あき子
評：笠木拓
110：
雨の夜は亡き人おもふほのぼのと発光をする馬のかたちの　　栗木京子
評：笠木拓
109：
青年と父が言うとき恋人は若木のように我が胸に立つ　　高松紗都子
評：廣野翔一
108：
落ちてゆく陽のしづかなるくれなゐを女と思ひ男とも思ふ　　安永蕗子
評：佐藤右京
107：
書きなぐっても書きなぐっても定型詩 ゆうべ銀河に象あゆむゆめ　　加藤治郎
評：川北天華
106：
江ノ島に遊ぶ一日それぞれの未来があれば写真は撮らず　　俵万智
評：杉山天心
105：
カーテンが窓の向こうにあふれいで風のかたちを示していたり　　北川浩久
評：延紀代子
104：
廃村を告げる活字に桃の皮ふれればにじみゆくばかり　来て　　東直子
評：小林朗人
103：
黒竜江（アムール）に飛び立ちゆかむ白鳥を思えり放射線をよぎりて　　吉川宏志
評：藪内亮輔
102：
お誕生日会の三角帽子かぶった子と物乞いする子　強化ガラスを隔て　　野樹かずみ
評：吉岡太朗
101：
トランプのどれか一枚なくなった途端残りも紙くずとなる　　早川晃央
評：廣野翔一
100：
わが肩に触るる触れざるゆふぐれの手があり少し泣きたい今は　　小島ゆかり
評：笠木拓
99：
われの生まれる前のひかりが雪に差す七つの冬が君にはありき　　大森静佳
評：吉岡太朗
98：
みずいろのリュックサックを背（せな）にして吾子は少女となる交差点　　二又千文
評：下澤静香
97：
かすかなる鱒（ます）といへども落雷に生きのこり体（からだ）曲りておよぐ　　佐藤佐太郎
評：藪内亮輔
96：
ゆふ日とほく金にひかれば群童は眼つむりて斜面をころがりにけり　　斎藤茂吉
評：大森静佳
95：
突然に『もろ人こぞりて』鳴り出だしティッシュ受け取り損ねて歩く　　福井和子
評：廣野翔一
94：
パラソルをかざしてゆくよ有史より死者は生者の数を凌（しの）ぐに　　佐伯裕子
評：大森静佳
93：
広辞苑第三版の中にいて闘いやめぬアラファト議長(1929〜)　　　千種創一
評：廣野翔一
92：
怒りつつ洗うお茶わんことごとく割れてさびしい　ごめんさびしい　　東直子
評：笠木拓
91：
そこだけがたしかにひぐれてゐる窓辺きみは林檎の光沢を剥く　　光森裕樹
評：大森静佳
90：
はばたきのシステムという美があってそれに指先だけ触れている　　服部真里子
評：藪内亮輔
89：
直線を引き続けると前触れなく途中の道で日暮れに遭う　　矢頭由衣
評：吉岡太朗
88：
一心に糸を巻く夜　死ぬ時は胸のところが遠くなって死ぬ　　盛田志保子
評：大森静佳
87：
モルディヴの形象をなぞる地図の上雨はそのまま止まないらしい　　下澤静香
評：藪内亮輔
86：
立ちならぶこころの病気ビルはまだどの窓も灯をともしてゐたり　　吉田隼人
評：笠木拓
85：
いつかって言わないでくれ ゆっくりと目の高さまで煙草をあげて　　加藤治郎
評：下澤静香
84：
不信は長く人を支へてきたといふその人の持つ閑かなフォーク　　澤村斉美
評：吉岡太朗
83：
黒鉛が紙のおもてを滑ってこれは君が燃えても燃え残る雪　　平岡直子
評：藪内亮輔
82：
あわれいま束を解かるる花茎のつゆけき交叉抱きあげむとす　　岡井隆
評：川島信敬
81：
沈黙はときに明るい箱となり蓋を開ければ枝垂れるミモザ　　服部真里子
評：大森静佳
80：
栄光は死後にゆつくりと訪れて夕ぐれに咲く花の大きさ　　岡井隆
評：矢頭由衣
79：
ほの暗い菩薩の森へわけいりぬどれもが永遠をささへあふ枝　　林和清
評：東郷真波
78：
ホットケーキ持たせて夫送りだすホットケーキは涙が拭ける　　雪舟えま
評：笠木拓
77：
くすの木の皮はがしつつ君を待つこの羞（やさ）しさも過ぎて思はむ　　河野裕子
評：大森静佳
76：
大海（わたつみ）はなにの罪ありや張りめぐるこの静脈に色をとどめて　　大滝和子
評：華野まり
75：
きみが十一月だったのか、そういうと、十一月はすこし笑った　　フラワーしげる
評：吉田 竜宇
74：
あなたが退（ど）くとふゆのをはりの水が見えるあなたがずつとながめてた水　　魚村晋太郎
評：吉岡太朗
73：
ウエハースいちまい挟み東京の雑誌をよむおとうとのこいびと　　土岐友浩
評：野口あや子 (ゲスト)
72：
時計屋に泥棒がいる明け方の海岸道をゆれていくバス　　我妻俊樹
評：土岐友浩
71：
碧空をうけいれてきただけなのに異形のひととしてそこにいる　　江戸雪
評：香山凛志
70：
かたちなき憧れゆえに漂着の重油に浮かぶ虹を見ている　　野樹かずみ
評：吉岡太朗
69：
われらかつて魚なりし頃かたらひし藻の蔭に似るゆふぐれ来たる　　水原紫苑
評：笠木拓
68：
相撲（すまい）する男すくなくなりしより清（さや）かなる水は店に売らるる　　棚木恒寿
評：大森琴世
67：
ひだりうでに鎖をなして連なれる歯形を熱き陽にさらしをり　　光森裕樹
評：下里友浩
66：
背にひかりはじくおごりのうつくしく水から上がりつづけよ青年　　佐藤弓生
評：吉岡太朗
65：
手の甲で君のほっぺに触れてみた 君のまぶたが「ふしぎ」と言った　　宇都宮敦
評：下里友浩
64：
なにひとつ求めぬ腕をしならせてやさしいひとが放つひこうき　　東郷真波
評：下里友浩
63：
オレンヂを積む船に手を振りながらさびしく海を信じてゐたり　　喜多昭夫
評：笠木拓
62：
牛乳が逆からあいていて笑う　ふつうの女のコをふつうに好きだ　　宇都宮敦
評：下里友浩
61：
たっぷりのドレッシングの照り返しだけがすべてを愛してくれる　　東郷真波
評：川瀬春奈
60：
なんでなんで君を見てると靴下を脱ぎたくなって困る　脱ぐね　　増田静
評：笠木拓
59：
遠いドアひらけば真夏　沈みゆく思ひのためにする黙秘あり　　澤村斉美
評：下里友浩
58：
くらくなる紐ひっぱりながら横たわりながらねむれますよう起きれますよう　　斉藤斎藤
評：下里友浩
57：
レシートの端っこかじる音だけでオーケストラを作る計画　　笹井宏之
評：下里友浩
56：
何もかも＜ごっこ＞で終ってゆく恋のさよならごっこのほんとの部分　　俵万智
評：笠木拓
55：
結果より過程が大事　「カルピス」と「冷めてしまったホットカルピス」　　枡野浩一
評：吉村千穂
54：
「人生は苦しい」（たけし）「人生はなんと美しい」（故モーツァルト）　　永井祐
評：吉岡太朗
53：
君はひとりでお昼ごはんをたべている　あんなところに階段がある　　下里友浩
評：吉岡太朗
52：
大みそかの渋谷のデニーズの席でずっとさわっている１万円　　永井祐
評：下里友浩
51：
あはれ知命の命知らざれば束の�里僚�銀箔のごとく滿ちたり　　�猖榾�雄
評：下里友浩
50：
イエスは架（かか）りわれはうちふす死のきはを天�惷�（あをがね）に桃咲きみてり　　�猖榾�雄
評：下里友浩
49：
遠き萩それよりとほき空蝉の眸（まみ） 文學の餘白と知れど　　�猖榾�雄
評：下里友浩
48：
�愬�にして妖�佑良磧＿討療靴呂�もりにみちつつ蒼し　　�猖榾�雄
評：下里友浩
47：
固きカラーに擦れし咽喉輪のくれなゐのさらばとは永久（とは）に男のことば　　�猖榾�雄
評：下里友浩
46：
雉食へばましてしのばゆ再（ま）た娶りあかあかと冬も半裸のピカソ　　�猖榾�雄
評：下里友浩
45：
燻製卵はるけき火事の香にみちて母がわれ生みたること恕（ゆる）す　　�猖榾�雄
評：下里友浩
44：
その論の器用大胆かつ不敵名もなきようだ異端か果ては　　觜本なつめ
評：吉村千穂
43：
日本脱出したし　皇帝ペンギンも皇帝ペンギン�欅薹犬蠅癲　☆猖榾�雄
評：下里友浩
42：
五月祭の汗の�愬�　病むわれは火のごとき孤獨もちてへだたる　　�猖榾�雄
評：下里友浩
41：
革命歌作詞家に凭（よ）りかかられてすこしづつ液化してゆくピアノ　　�猖榾�雄
評：下里友浩
40：
べくべからべくべかりべしべきべけれすずかけ並木来る鼓笛隊　　永井陽子
評：加藤ちひろ
39：
海からの風みたいだなごうごうと通過電車に吹かれてみんな　　早坂類
評：光森裕樹
38：
落魄と思はぬ日さへ追はれ來てつひに立たされし夏野なりけり　　�猖楫鳥�
評：下里友浩
37：
いちぎやうですらりと歌をつくり棄て長い散歩に出やうとおもふ　　紀野恵
評：光森裕樹
36：
かんたんに「原ばく落とす」とか言うな
わらうな
マユリーをつれて帰るな　　今橋愛
評：下里友浩
35：
盛られ来し海老最期までプライドのありしと思う緋色の双葉　　吉村千穂
評：觜本なつめ
34：
かたちだけ質問を待つ　発芽には適さない土としてこの場は　　兵庫ユカ
評：香山凛志
33：
青空のどこか壊れているらしく今日三度目の虹をくぐれり　　佐藤りえ
評：東郷真波
32：
谷のテント場に電波は届かない無形の空をぼくらは見上ぐ　　澤村斉美
評：金田光世
31：
我は我を見せられず鱏（えひ）がその腹の白さを人に見するほどには　　大口玲子
評：光森裕樹
30：
たとへば君　ガサッと落葉すくふやうに私をさらつて行つてはくれぬか　　河野裕子
評：井上嵩浩
29：
一度だけ本当の恋がありまして南天の実が知っております　　山崎方代
評：吉村千穂
28：
ときどきの思いのなかを馬がゆく光がものを美しくする　　永田紅
評：下里友浩
27：
ティーバッグ破れていたわ、きらきらと、みんながまみをおいてってしまう　　穂村弘
評：生駒圭子
26：
眠らむとするころ雨は降り始むことんことんと胸の椎の実　　柴夏子
評：増田一穗
25：
各階に京都を見下ろす人はゐて風がそよげば白衣がなびく　　北辻千展
評：東郷真波
24：
半そでのシャツの上からコート着て透き通る冬の歩道をあるく　　永井祐
評：下里友浩
23：
でも君の背後にいつも窓はあり咲いているその花の名は何　　錦見映理子
評：香山凛志
22：
くれなゐのだりあのかたへいやふかき紅に咲く大輪だりあ　　岡本かの子
評：觜本なつめ
21：
歳をとったら　歳をとったら君に出すお茶にもつつじのひとひらを入れ　　森本平
評：光森裕樹
20：
どの恋人もココアはバンホーテンを買いあたしの冬には出口がない　　雪舟えま
評：下里友浩
19：
元日のあさ裃に積もりけるゆきたけながき春がきました　　可陽亭紅円
評：井上雅史
18：
マンションに夜舞い降りたフラミンゴ照らされる時雨傘になる　　金田光世
評：生駒圭子
17：
被弾した機体のごとく飛来してわが腕に蝉はぶつかりにけり　　松村正直
評：小島一記
16：
波へだて遠ざかりゆく君のためなほまつすぐに告ぐる愛あり　　高島裕
評：澤村斉美
15：
「ナイフ？　何故？」咯什（カシュガル）の女性（ひと）は紅き爪真っすぐに立てて白桃割りぬ　　片柳香織
評：増田一穗
14：
頬に風受けつつ走る今もまた何かを忘れてゆくのだろうか　　西之原一貴
評：北辻千展
13：
氷砂糖溶けゆくかたちを確かめてすべてあなたのせいだと思う　　上田茜
評：生駒圭子
12：
わが海の荒れやまぬ夏終わるらし　あふむけの蝉返し歩かす　　首藤絵美
評：棚木恒寿
11：
手のひらの石けん小さくほぐれゆくまだ果たせずにいる約束は　　西之原一貴
評：柴田悠
10：
町の灯を遠く指すとき古魔術のむかしは指の先に現る　　澤村斉美
評：金田光世
9：
あの粒の残していった水（みな）跡を拾いつづける車窓の雨粒　　柴田悠
評：松本隆義
8：
爪持たぬ夜は満ちたりわが声を喰らへる鳥の止まりゐる針　　増田一穗
評：中島祐介
7：
海へくだる水を翼で打ちながら群れの中より一羽が発てり　　澤村斉美
評：中村綾
6：
鳥を飼っているのはほんとう　きみのいない時に放して運動させる　　澤村斉美
評：増田一穗
5：
地下鉄のレールを遠く伸ばしたる町のいづくに昨日が眠る　　松島綾子
評：片柳香織
4：
靴紐を直す背後の噴水に晩夏のいわし雲がかぶさる　　小島一記
評：西之原一貴
3：
枝高き並木の奥に今日もまた戸が開いている寮の入口　　西之原一貴
評：小島一記
2：
鮭卵がゆるりとなだれくる色にタクシーの灯の連なり崩る　　堀野真実子
評：澤村斉美
1：
立ち読みの途中突然かなしくて書棚に縋って泣きたくなりぬ　　水野ふみ
評：松島綾子