歌会の記録:2011年3月6日(日)

歌会コメント

追い出し歌会。参加者11名。
三潴忠典さん、矢頭由衣さん、吉岡太朗さんの追い出しでした。
また京都で会いましょう。

※07 藪内さん作品の後半部分は非公開となっています。

詠草

01 区切りよく別れることの正しさか枯木は春のみぞれに濡れて  小林朗人


02
 三潴さん
みやこからみやこへ移る束の間の時を団子の串でつらぬく

 矢頭さん
重力を感じながらも坂道の至るところに光を落とす

 吉岡くん
太陽がいくつあってもあをいろの広がるここをUMIと名付ける  土岐友浩

  *特に種も仕掛けもありません


03  さようならこれからもよろしく

日曜の夜長にひとりぷちぷちと三十一文字を綴りはじめる

ラジオにてまた今週も聞く名前きっとあなたもひとりなのですね

つぶやきに誘われついに顔を知る本当の名はいまだに知らぬ

晩秋にまつりごとありひがしにて京うたびとの集うとぞ知る

藪のうち歌を訪ねし四人連れ、おお森からの朗読聞こゆ

掻き混ぜる鍋の中身はヒッヒッヒッ得意料理は豚汁ですよ

「新入生歓迎記念送別会」さようならこれからもよろしく

来年は後輩がきます来年の活躍誓うものたちに告ぐ

うたびとの集いをあとに南へと向かうその地はうたのふるさと  三潴忠典


04
 感情と言葉が一致しない日に百葉箱の白さを思う  矢頭由衣
感情を名づけることのかなしみのいとしさのさびしさのいかりは


 木枯らしが吹くとポケット増えてゆく何を入れるか決められぬまま  三潴忠典
そののちは冬 幾千のポケットに雪降り雪の影降りやまず

  京都、左岸にて
 この川は記憶を甘やかす川と雪柳もうすこしだけ見てる  吉岡太朗
雪の時期にすこし遅れて咲く花よ〈この川〉が〈あの川〉になりゆく  大森静佳


05
 この樹登らば鬼女となるべし夕紅葉――聖三橋鷹女
紅葉もみじばのひとつひとつを拾い上げ鬼になりたき少女が微笑ふ

 無人駅白いホームに赤とんぼ考え事が決まり飛び立つ  三潴忠典
赤とんぼ重さ微かになったからもう朱い赤い紅い東へ


 直線を引き続けると前触れなく途中の道で日暮れに遭う  矢頭由衣
垂直になるように会う 直線や我にも等しく夜が来る前に


 新しい世界にいない君のためつくる六千万個の風鈴  吉岡太朗
新しい世界に居ても風鈴は闇と星座を映しているよね?


 ネブラスカへ行く彼と焼肉を食べに行った
路地裏のあなたを通るその風もオマハをいつか経由したもの  廣野翔一


06
頭上には満天の星、矢のように由無く強くかざす衣手

歌に触れ、触れられようと試みつ まただ乗り過ごせない都路

 いつかまたこの地で会おうぜ俺達は出町柳の出ッ歯の騎士団  吉岡太朗
出町から出るたびきッと思い出す矢印デルタがあるさ出動だまた  笠木拓


07 吉岡太朗氏、矢頭由衣氏、三潴忠典氏に獻ずる三連作とその裝飾樂句カデンツァ  藪内亮輔


 京大短歌といふふかきふかき闇あり。

会ふことが別れをしばし積もらせて***やなぎの上に夜半の雪みゆ

***

機糞くじ)考

 (魚くじ)とは何であらうか。例へば猖榾雄勉強会資料をはさみ乍ら考へてみる。魚は西洋に於いて生命を意味するらしい。

  聖ピリポ慈善病院晩餐のちりめんざこが砂のごとき眼
  われら母國を愛***し昧爽(あさ)より生きいきと蠅ひしめける蠅捕リボン

 この〈ちりめんざこ〉の生命感はどうだ。人類への、文明への、神への詩的反逆に満ちてゐる。それに較べて蠅はかぎりなく(死)に近い。「生きいきと」といふ修飾は、蠅自身といふよりも寧ろ作者から蠅ら――それが何を隠喩してゐるかは措くとして――への痛烈な皮肉に於いて消費されてゐる。

  そのたびに泥がこぼれる 図書館の本の着ぐるみ剥いだら魚

 資料1:短歌的喩構造、と書いて在る。「上句を下句によつて喩へ、逆に下句を上句が喩へかへす。その照応関係が、二つの句の共通部分を浮き上がらせる。発見せしめる。」

  屠殺場の遒凍雪(いてゆき) 死にあたひするなにものも地上にあらぬ
  歌がわれを殺すかわれが歌と刺しちがへるか 凍雪にふる霙
  寒泳の愬の群われにむきすすみ來つ わが致死量の愛

 実景のなかに隠された〈真〉なる部分、〈核(コア)〉なるものをおそろしくあざやかな手つきで取り出してゐる。然し乍ら逆に言へば、その(抽象)なる句の、実景のなかに於ける真の姿こそが、屠殺所の遒凍雪であり、凍雪にふる霙であり、すすみ來る寒泳の群れなのであらう。
 さて、此処で提出歌に戻る。本の着ぐるみ――とはすなはち、事象・歴史の外側の部分、〈偽〉なる部分であらう。それを剥がし得る存在を、然ればこそ詩人と呼ぶのである。その着ぐるみを剥がした先に、作者は(魚)を視る。直観する。なまなましい、土をつけた魚――。

 一 世界は成立している事柄の総体である。 (『論理哲学論考』ウィトゲンシュタイン)

 (魚)とは、事柄に内在する生命の核(コア)、エンジンである。それはすなはち、世界の核とも言ひ得る。『魚くじ』の世界の核。
 さういへば、この世界はいやにぴちぴちしてゐるな。電信柱も、生きてゐるし。なんだらうなあ、(魚くじ)つて。


いめえじが意味になるまへ、ぴちぴちと魚釣島(うをつりじま)がはねてゐたりき


 ***

吉岡さんのほほゑむやうな夕空を見て飽きてかへりかけてまた見る

雪*柳***吉岡太朗***雪嵐***雪*兎**矢頭*由衣**雪消月

 ***


供 悒凜イド』僞書

ほろほろと夜霧ゆたけき深草ゆ来しうづらかも背(せな)濡れをれば

看板の鳥の夜霧に泣くごとし今をし想ふひとのありけむ

悗菊の主題ゆ魔王にいたるまで河のごとしもそののちの瀧

夕びかりはげしき罌粟の畑にて唱へよ 死とは心の安静(アタラクシア)

生焼けの魚(うを)ならべられそのひとつにほそ黒く曳く眼中(がんちゅう)の血

我が咽喉に冷たき水を押し込めつ長閑なり空爆のニュース

喉腐(のどぐさ)りの天麩羅なる奇つ怪なもの喰ひをりぬ空爆見つつ

Ensemble vide 花瓶に花なきが逆にゆたけき花繁らせて

木像に内臓あるかあやしみて手折れば匂ふ楡のにほひ

車に液状火薬塡(つ)めゐるを観てゐる月の晩なり

暗闇に曼珠沙華咲く絵外に雪降りはじむ

モスクワに雪降りゐたり中継に張り付く笑顔

裝飾樂句とは何ならむ蛍光付箋張る

墓場見ゆ(墓場に反射する光見ゆ)

三十階に泥棒がゐる僕がゐる

原爆碑人より高し月の夜に

秋雨のなか立ちつくす信号機

仏像は一個百円時雨月

傘の内臓



 ***

凛(さむ)き夜空は琴、たましひに音聴けば深き処ゆひいん、ひいん、と

 ***
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